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肝臓癌について

肝臓癌

概念

肝臓癌は大きく分けて2つに大別されます。1つは原発性、もう1つは転移性です。原発性というのは肝臓自体から発生する癌で、多くは肝細胞癌ですが、稀に胆管から発生する胆管細胞癌もあります。
転移性肝癌というのは、他臓器(頻度として多いのは大腸・胃・その他腹部臓器)から血行性に癌細胞が転移し、肝内で増殖するものです。原発性と転移性とでは生物学的な性格が異なり、治療方針も若干異なります。
原発性肝細胞癌の約 90%はウイルス感染症が原因です。B型肝炎や特にC型肝炎ウイルス(HCV)が持続感染し、肝細胞に炎症をきたし、壊死と再生を繰り返しながら慢性肝炎を経て肝硬変に移行します。その中で遺伝子異常が生じ、肝細胞癌が生じてきます。

原発性肝癌の疫学

年々、肝悪性新生物による死亡者数は増加しています。これはC型肝炎から肝硬変の罹患率が増えていることによります。肝臓癌による死亡者は増加の一途を辿っています。
厚生労働省の統計では、ウイルス性肝炎の高い罹患率を背景に肝臓癌による死亡者はここ数年、年間3万人を超えているような状況です。肺癌、胃癌、大腸癌に次いで4位です。

肝細胞癌の診断

肝臓癌の自覚症状は特異的なものはありません。肝臓は別名「沈黙の臓器」と言われ、進行しない限り腹痛や黄疸、肝不全などの症状が自覚されません。逆に肝臓が癌に侵され肝障害を伴い、肝不全(黄疸・腹水等)を生じる場合には手遅れになることが多いです。また、疼痛も基本的に腹膜や他臓器への侵襲がない限り、初期には発生しません。症状とすれば、倦怠感・食欲不振・腹満感など非特異的なものが殆どです。

発見の契機

慢性肝炎や肝硬変の経過中、腹部エコーやCT等の画像診断で発見されることが多いです。その他に定期的な血液検査で腫瘍マーカー(AFPやPIVKA-Ⅱなど)の上昇や、精密検査で見つかることがあります。

血液検査

血液検査は腫瘍マーカーと言って、肝臓癌が分泌する蛋白などを調べることができます。代表的なものとして AFP(アルファ型胎児性タンパク)や PIVKA-Ⅱが用いられます。一般に腫瘍マーカーは癌が存在すると陽性となりやすいですが、癌がある場合でも、必ずしもこれらが上昇するとは限りません。腫瘍の活動性が旺盛な場合やその腫瘍がマーカーを分泌する性質を強く持っていれば陽性になり、腫瘍の存在を疑わせる指標となります。また定期的に血液検査を行い、基準値よりも上昇してくる場合には要注意として、精密検査を行います。腫瘍マーカーによって癌の活動性や再発などを早期に発見することもできます。但し、腫瘍マーカーの検査だけでは肝炎や肝硬変だけでも陽性のことがありますし、一部の肝癌ではそれらを発現しない場合には全く信用性がなくなりますので、正常値でも定期的な画像診断を行う必要があります。

画像診断

1.腹部超音波(エコー検査)
最も簡便で安全かつ有用な検査として、超音波を用いて肝臓の状態をみる方法があります。これらは一般の診療所でも可能です。侵襲性が全くなく簡便にできるというメリットがあり、腫瘍の存在をスクリーニングするには有意義な検査です。但し肝硬変が進んだ場合は、腸管のガスや肺などが被されば、超音波は空気に非常に弱いため画像が得られないケースもあります。肝臓の頭側辺りは肺野が邪魔したり、深部に関しては超音波が充分に届かない場合もありますので、盲点となる部位があります。
2.CT
レントゲン撮影をコンピューターで制御し、断層撮影をする方法で、エコーと違い空気などの存在は邪魔になりません。CT は肝臓癌の発生が疑われる場合には有用な検査です。但し造影剤を使わない場合には、肝硬変の再生結節や脂肪沈着など、他の良性腫瘍との鑑別が困難なケースがあります。詳しく診断するためには造影剤を急速静注し同時に高速撮影することによって、肝臓の血行動態を把握することができたり、腫瘍が浮き彫りになります。造影剤は決して危険性が高いものではありませんが、腎機能低下症の方やヨードアレルギーの方、過去にショックや薬疹などの副作用があった方は他の検査に頼らざるを得ません。担当医とよく相談の上、検査を受けて下さい。

3.MRI
CTと違って磁場を用いることにより画像を形成します。脳や脊髄などでは広く普及されていますが、肝疾患に関しても有用です。長所はヨードなどの造影剤を使わないで済むことや様々な方向で撮影も可能です。一般の超音波やCT検査で陽性か、良悪性の判断がつきにくい場合や、腫瘍の活動性をみるには有用です。但し、磁石に反応する金属が体内に使用されている場合(昔の手術機材や刺青など)は、磁場による副作用が出るために避けなければいけません。呼吸や体動によって画像がぶれやすく、短時間ですがじっと安静を保っておく必要があります。
4.肝動脈血管造影撮影
肝臓癌の診断や治療方針を決定する上では、ほぼ必須の検査です。主に右の大腿鼡径部に局所麻酔をし、針で穿刺した後、細いカテーテルを腹腔動脈から肝動脈へと進め、造影剤を注入して肝臓を映し出す検査です。肝臓や腫瘍の血行動態をみたり、肝臓を栄養する門脈が腫瘍で閉塞していないか等を検索します。この検査により、手術療法や凝固療法、血管塞栓術などの適応を決定します。多くは、同時にそのまま腫瘍を栄養する血管に抗癌剤を注入し、動脈を塞栓するTAEも行うことがあります。検査そのものは10分~20分(TAEなら30~60分)で終わりますが、動脈を穿刺するため、術後数時間は下肢を伸展位のままにし、穿刺部を圧迫固定する必要があります。検査の侵襲そのものは、造影剤を使うことの副作用程度で、痛みや苦痛は殆どありません。

5.PET
癌などの腫瘍は糖の代謝が活性化されていますので、糖の取り込みをみて癌の検出を行うのがPET検査です。しかし肝臓癌では、検出率がさほど高くないことや保険が適応されていないことより一般的ではありません。どうしても良悪性の鑑別をつけたい時や、転移性肝癌が疑われるものの、原発巣がわからないような場合に限って行われます。この検査は糖代謝をみますので、糖尿病の方などは検査の精度が下がります。特別な機器が必要で、保険診療も難しく、まだ一般的ではありません。

肝臓癌の主な治療法

はじめに

肝臓癌の治療法には大きく分けて以下の3つの方法があります。

  • 直接的に手術によって癌を周囲の肝組織を含めて取る方法(肝切除術)。
  • 経皮的に肝を針で穿刺し、腫瘍に直接エタノールを注入したり、マイクロターゼやラジオ波などの熱凝固により癌を壊死させる方法。
  • 肝臓の動脈から腫瘍を養っている部位に抗癌剤を入れ、且つ栄養血管を詰めて腫瘍を壊死させる方法。肝動脈塞栓術(TAE)。

1.肝切除術

肝切除は周囲の肝組織を含めて直接病巣を摘出するので、最も確実な治療法と言えます。しかしながら肝癌の多くは肝硬変を伴っており、肝機能が保たれていることが絶対条件となります。よって手術の侵襲の大きさと肝機能(肝硬変の進行度)を天秤にかけて、安全性が高い場合には手術の適応となります。そのために、手術を検討する場合には必ず年齢や全身状態、他の疾患の合併及び特に肝臓の予備機能を考慮し、手術療法を選択するのか以下の他の治療にするのか検討する必要があります。手術の最低条件では、腹水の貯留や黄疸などの肝不全の兆候がないことや、血液検査で ICG(indrocyanine green)という色素の代謝力をみて肝予備能を検討します。

2.経皮的エタノール注入法(PEIT)

局所麻酔下で経皮的に肝細胞癌に対してエコーでみながら針を穿刺し、エタノールを注入します。直接的にエタノールの脱水効果で腫瘍を破壊する方法で、一般的には2~3㎝以下、2~3個以内の肝細胞癌が良い適応とされています。特に手術ができないような肝機能不良例に適しています。ただ、超音波で見えない場所や肝表面病変や大きな血管に近い場合には、安全な穿刺ができないため適応が外れる場合があります。

3.ラジオ波熱凝固法 マイクロターゼ マイクロターゼ熱凝固療法

エタノール治療(PEIT)と同じく超音波やCTで誘導しながら癌組織を直接穿刺し、先端の電極から電磁波を出して周囲に熱を発生させ、病巣を凝固壊死させる方法です。適応はおおむね直径2~3㎝位の範囲の組織を完全に熱凝固しますので、比較的小さな癌に対する治療に適しています。PEITと同じように3㎝以下、3個以内が良い適応ですが、問題とされる合併症として、大血管に近い場合には血管を凝固してしまうという合併症を生じてしまいますので、適応が外れます。また、表面に近いところや近隣の胃や大腸に接している部位には、それらの組織に熱凝固が伝わり穿孔や壊死の形成があるため、腫瘍の部位に関しては制限されます。更に最近では熱凝固法による腫瘍内圧の上昇のため、門脈(肝臓の血管)内に腫瘍を播種させる危険性も指摘されています。よって、手術ができないような肝機能不良例や合併症をもった方で、且つ穿刺治療に適した場所の治療に限られます。

4.肝動脈塞栓化学療法 TAE TACE

肝臓は肝動脈と門脈(胃や腸の静脈系)からの2重の血流支配を受けています。正常肝はこの両方から酸素や栄養をうけますが、腫瘍に関しては殆どが肝動脈によって栄養されていることからこの治療が考えられました。つまり、正常な肝臓は門脈からの血流で養われますが、肝動脈を主な栄養血管としている腫瘍を塞栓すれば、腫瘍を血流不全に陥らせ、壊死させられるという考えです。鼠径部や手からカテーテルを入れ肝臓の血管を造影した後、超選択的に肝腫瘍の肝動脈に1㎜程のマイクロカテーテルを挿入します。高濃度の抗癌剤を肝局所に投与し、且つ腫瘍を養っている動脈を塞栓物質で詰め、兵糧攻めとするのが TAE です。治療の利点は肝機能が悪い方や手術不能な方でも治療ができるケースが多いことです。また、局所麻酔下のカテーテル治療ですので侵襲が少ないと言えます。欠点は、TAEのみでは腫瘍の完全壊死を得ることが困難で、根治性については劣ります。そのため再燃した時は、繰り返し行う必要があります。また、手術や局所療法、ラジオ波やPEITなどの併用を必要とするケースもあります。

5.全身化学療法

前述のような治療法が選択できない場合には、化学療法(抗癌剤の内服)や点滴を行う場合があります。しかしながら、全身投与では充分な治療や延命効果が得られる程の薬物の開発が成されていません。前述のような積極的な治療の適応がない場合や、肝障害等でそれらの治療が受けられない場合に限って行いますが、他の癌患者様と同様に副作用をみながら行います。まだ肝臓については、肝癌に感受性の高い抗癌剤がないため推奨される治療ではありません。

6.肝動注リザーバー化学療法

TAE は有効な治療ですが、腫瘍のために門脈が閉塞している場合には動脈を塞栓すると肝そのものが壊死に陥る場合があります。また、肝機能が不良な患者様は、TAEを肝腫瘍局所に行うといっても肝臓にも負担がかかりますので、そのような場合は分割で肝臓に抗癌剤を入れるためにカテーテルを皮下に埋め込む方法があります。鼠径部又は鎖骨下よりカテーテルを肝臓内に入れ、皮膚の下にリザーバーという2~3㎝径のパックを挿入します。体外よりそのパックを穿刺することにより、繰り返し肝動脈内に薬物を注入できます。終了後は針を抜くだけで、半日もすれば入浴も自由です。この治療の利点は、肝臓への負担が軽いことや前に述べた手術療法や局所凝固療法、TAEなどが困難なケースにも応用治療が可能なことです。特に転移性進行癌には良い適応となります。欠点は、1~2週間に1回、繰り返し外来で2~4時間程かけて化学療法室で薬液を注入する必要があることです。しかし通常の生活には特別な制限はありません。

7.肝臓癌に対する免疫療法

免疫療法は民間治療を含め様々なものが紹介されていますが、確かなエビデンス(証拠)に基づいた治療法はまだ確立していません。厚生省の検討でも現在、癌に対する免疫療法はごく一部の疾患に対する内服治療や注射治療のみで、抗癌剤をしのぐ程の有効な成績が挙げられていないため、普及に到っていません。その中で、活性化リンパ球療法は保険適応にはなっていませんが、肝臓癌では他の治療との併用により有意な延命効果が成されたとする論文が紹介されています。しかし、それらもまだまだ充分なエビデンスに基づいていませんので、治療を希望される方は担当医と充分相談の上、決定して下さい。

以上、肝癌の治療に関しては上記のような方法がありますが、1 つの治療法に限らずいくつかの方法を組み合わせてプランを立てることが大事です。患者様それぞれ、年齢や他疾患の合併、肝炎や肝硬変の程度、病巣の広がりによって最も適した治療法を組み合わせる必要があります。

肝臓癌の広がり(進行度、stage)

進行度を左右する大きな要素は、①腫瘍の大きさ、②数、③血管への浸潤や④多臓器への遠隔転移などで、肝細胞癌の広がりを決定します。これらの程度によりstageⅠ~Ⅳまで分けられます。腫瘍が小さく数の少ない方が早期癌になりますが、小さくても周りの血管に浸潤していたり、多臓器に転移している場合には進行癌となります。Stageによって治療方針が変わってきますので、治療前に精密検査が必要です。

肝癌死亡原因
癌 死 57%
肝 不 全 死 26%
消 化 管 出 血 3%
食道胃静脈瘤 5%
肝細胞癌の予後生存率
3 年 5 年 10 年生存率
初回肝切除例 70% 55% 29%
P E I T 65.5% 42% 14%
T A E 40% 22% 6%

治療成績

1.肝切除の治療成績

肝切除の治療成績は、15年前では5年生存率が40数%でしたが、現在では60%程になっています。また10年生存率も25%となり、治療の改善がみられています。10年程前と比べて手術の技術が上がったことや、切除に使われる道具の開発などより出血量・輸血量は明らかに減少しています。stage別に根治的手術後の5年生存率をみると、stageⅠは約80%、stageⅡ約60~65%、stageⅢ約50%、stageⅣ約35%となっています。

2.経皮的治療の成績

経皮的エタノール注入療法(PEIT)の5年生存率は42%~55%です。適応を選択すれば手術療法と同等の治療効果が成されることより、2~3㎝以下、2~3個以下のものには他の治療と併用することにより有効と言われています。

3.ラジオ波やマイクロターゼ マイクロターゼ熱凝固療法

まだ歴史が浅いために5年、10年の生存率はまだ充分に検討されていませんが、PEITと同程度又はそれ以上の治療成績が期待されています。

4.肝動脈塞栓化学療法

肝動脈塞栓療法はどうしても手術療法や経皮的な治療、PEIT、マイクロターゼなどができない症例が多いため、そうしても5年生存率は低くなってきます。様々な報告がありますが、TAEでの5年生存率は20~25%程です。しかし、適応がある場合は放置よりは延命効果が期待できます。


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